澤口雅彦レポート~さわレポ3~ ―地域に根づくクラブを目指して―

4月4日、入社して初めてのホームゲームを迎えた。
名のある選手を率いるジュビロ磐田をホームに迎え、ホームゲーム初勝利となるか、期待が集まる試合となった。

天候はあいにくの雨。
試合を観戦する皆さんにとってはスタジアムに足を運びにくい環境ではあるが、私個人としては嫌いな天候ではない。

雨が降ることで草木や花はいつもと違う顔をしてくれるし、紫陽花は雨の日に見るほうが季節感を感じ、よりキレイに見える。

好きな人とのデートで、予期せぬ雨に相手が傘を持っていなければ、相合い傘ができるかもしれない。

決して悪いことばかりではない。

最近は試合が始まる直前にグラウンドに水を撒くスタジアムも多くなった。
皆さんも目にしたことがあるのではないだろうか。
水を撒くことで芝の表面が濡れて、ボールがよく滑ってくれるのだ。
サッカーの業界用語で言うとボールがよく走るとか、スリッピーなピッチなどと言うこともある。

なぜ水を撒くのか。
パスサッカーを好むチームは自分達の強みを活かし、優位に試合を運びたいと水を撒いているのだ。

同じ『芝』と言っても、スタジアムごとの違いはあって、晴れている時のシティライトスタジアムの芝は少しねちねちしていて、ボールが芝にからみつく特徴をもっていると個人的には感じていた。

しかし雨が降るとボールが走るので、個人的には少し濡れているピッチの方が好きだ。
雨の日の方がよりアグレッシブに、いつもは距離があるからチャレンジできないパスを通せたりする。

そんな雨の日のホーム戦、4,614人の方が駆けつけてくれた。

私がスタジアム入りしたのは午前8時前。
8時からのミーティングを終え、各持ち場に散っていく。
私は広場のブースとキッズエリアの準備に取りかかった。
文化祭やフェスのような感覚で、気分は高揚していった。

初めてカシマサッカースタジアムを訪れた8歳の時の記憶が蘇ってくる。
スタジアムのスケールの壮大さ、試合前の独特な緊張感、人の熱…、シティライトスタジアムは当時の記憶を蘇らせてくれた。

ストラックアウト、Cスタイースターなどのイベント準備をひと通り終えて、メインスタンド2階のコンコースでお客様を迎える準備をした。

広場にはファジレッドのユニフォームを着たサポーターが徐々に集まってくる。
人が集まり、列をなし、武道館側へ赤い列ができていく。

先行入場の皆様をお出迎えする準備が整った。
「ご来場ありがとうございます!」

そんな私の言葉を打ち消す言葉がとんできた。
「おかえり」

なんて心地よく温かい言葉。
再びファジアーノ岡山のサポーターの皆さんに会えて、心から嬉しかった。

もう一つ嬉しいことを目にした。
友達と観戦する方、子ども連れの家族…、スタジアムに足を運んでくれたのはこのような若い方ばかりではなかった。
スロープや階段をゆっくり歩いてこられるお年寄りの方の姿に目を奪われた。
雨のなか傘をさして、スタジアムまで足を運び応援する。
その労力を考えると胸が熱くなる光景だったし、ファジアーノ岡山が人々を元気づけ、地域の方々の生活の一部に少しずつなってきているのではないかと思った。
家族で食卓を囲むとき、子どもからファジアーノ岡山という言葉が出て、おばあちゃんと試合について話し出す。会話が弾み笑顔が生まれる、そんな日常にしたい。

同時に、年齢を問わずもっとサッカーを楽しんでいただける安心安全なスタジアムをつくっていきたい。

J1昇格を目指すことと並行して、ファジアーノ岡山というクラブがより成長するために、サポーターの皆さんと共に築いていけたらと思う。
サポーターの皆さんもクラブの一員として。

最後に、クラブスタッフはホームゲームの運営にあたって、背中に「ask me」と書いた服を着ているが、クラブスタッフとして初めてこの日を迎えた私だけは、「help me」になってしまった。

4月17日の水戸ホーリーホック戦からは、一人前のクラブスタッフを目指して頑張りたいと思う。


澤口雅彦
ファジアーノ岡山に2009~2018シーズン在籍し、2020シーズンをもってプロサッカー選手を引退。
2021年3月下旬に株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブに入社し、新設した『クラブコミュニケーター』として、事業部門、および普及スクールコーチを担務し、地域とクラブの発展に寄与する活動をしてまいります。


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