澤口雅彦レポート~さわレポ20~ —朝が怖くない―

現役時代の生活と、今の生活では、一日の生活サイクルは大きく変わった。

現役時代は一日でいうと、9時の練習がメインになる。そこに対して一番のピークを持ってくるために、逆算をした中でスケジュールを立てていく。
朝は5時くらいに起きて、シャワーを浴びて準備をし、ご飯を食べて出発する。
練習場に到着するのは練習時間のおよそ2時間前。ちなみに加地亮はその倍くらい前に着いている。到着しトレーニングルームに入ると、湯船につかって体を温め、音楽を大音量でかけながらトレーニングをしているホカホカの加地亮がそこにはいる。

私はストレッチなどで体を動かし、上半身、下半身の可動域を広げていく。その後に有酸素運動で体を温め、体の各部位に負荷をかけるトレーニングに移っていく。
筋肉系のトラブルが多かった私は、リハビリ中に自分の体に合うトレーニングを主に下半身の筋肉に刺激を入れるようになった。ふくらはぎや、太ももの後ろの筋肉に刺激を与えて、練習の最初からスムーズかつ、アグレッシブに入れるようにする。
そして一番の目的は、怪我のリスクを減らすことだった。

練習を終えると、基本的には個人で使える時間。練習後に筋トレをしたり、マッサージを行ったり、個人の時間の使い方がある。
政田ではできないトレーニングを他の場所で行う選手や、温泉につかり体の回復に当てる選手、昼寝をする選手、勉強する選手、さまざまである。

当然、準備を入念にして練習を行ったとしても、相手との接触や不慮の出来事、古傷に負担がかかり過ぎるといったことが起これば、次の日の練習に響いてくる。

若い頃には感じなかったことだったが、経験を積み自分の体を理解することができるようになってからは、敏感に体の違和感に気がつくことができるようになった。
現役時代は食事に関してそこまでストイックではなかった私だが、毎日の体重測定では体重計に乗らなくても自分の体重が何kgかわかるようになった。

自分の体のことを把握できると、筋肉の張り、膝に水が溜まる感覚、それ以上やると怪我につながるというラインの見極めができるようになる。
この見極める技術もプロフェッショナルの大事な要素の一つであるし、ベテランの選手ほど備わっている要素だと思う。

練習中に違和感をもつと、すぐにアイシングをしたり治療したりと、怪我の度合いを軽度に抑えるよう、怪我ではなく違和感のみに済ませられるようにと、いろんな策を講じて次の日を迎える。

大怪我の場合や、足首をひねり、すぐに腫れるようなことがあれば、次の練習はできないという判断ができる。しかし、違和感をもつ程度だったり、受傷直後というのは症状が現れにくかったりするため判断がつきにくい。そんな時は時間の経過とともに症状が出てくる。
冷やすことが効果的であれば、20分間アイシングし、40分は放置、その後再度20分アイシングをしては40分放置…を就寝するまで繰り返す。時には痛みがある患部に電気を流しながら寝ることもあった。

その後ベッドに入り寝るのだが、不安で熟睡できない。怪我の程度も気になり、何度も目が覚めては軽く足を動かしチェックする。そしてようやく朝を迎える。
朝を迎えた時が、痛みの現れやすい時間だった。練習ができるのか、できないのか、時には急激に痛みがでて足が地面につけられないこともあった。

そんなこともあり、朝を迎えることが怖かった。怪我がつきものとはいえ、契約の世界で生きる選手にとっては1試合たりとも無駄にはできない。練習ができないことでコンディションを落とすことになる怪我は、何としても避けたいことである。

私の場合3~4週間の怪我であれば、コンディションを上げて3週間で復帰したとしても、次に出場機会を得るのは、復帰してからおよそ2~3週間後。そうなると怪我をしてから、試合に出るまでに5~7週間の時間を要する。1週間に1試合のペースで行われている時はまだいいが、これが大型連休のゴールデンウイークなんかにあたってしまうと、10試合近く棒に振ってしまうことになる。リーグ全体の4分の1が終わってしまうのだ。

朝を迎えることが怖かった選手時代だったが、引退後は寝ることが怖くなくなった。

最近の私はというと、朝6時に起き、まず一番にすることは玄関に行き新聞を取ること。
子どもたちが起きて来ないうちに、ざっと新聞に目を通すのだ。
新聞を読んだ後はシャワーを浴びて、支度をする。シャワーを浴びることは私の中で1日の始まりというか、何かする前のスイッチでもある。
現役時代は、必ず出発する前にシャワーを浴びてから試合会場に向かうのがルーティンだった。

ルーティンに関わる話でいうと、選手時代は、政田に行く際はいつも音楽を聴いて気持ちを上げていた。現在はというと音楽ではなく、ラジオを聴きながらの出勤へと変わった。
ラジオを聴くことで訪問先での話題になったりするからだ。

車内にはいざという時のためにワイシャツ、ネクタイを入れ、スーツのほこりを取るためのコロコロなどが増えた。

選手の時とは違い、生活が変わった私。
企業に訪問すると、全く違う世界に入られて大変ですねと心配していただくことが多々ある。もちろん選手の時とは違い、不慣れで大変なことも多いが、いろんな経営者の方とのお話は新鮮で面白い。

人は環境が変わることを嫌がる傾向がある。私もその一人であり、慎重になればなるほど一歩が踏み出せなくなる。踏み出す一歩に勇気が必要になってくる。
生活が変わった私だが、決して悪いことばかりではない。

先日も同い年のプレーヤーがサッカー界から身を引いた。
一人、また一人と、かつての戦友が引退していく事は悲しいが、先日引退した彼と電話をした際、これからの生活にワクワクした様子だったので嬉しかった。

新しい一歩を踏み出したことでいろんな発見があるし、新たな可能性も広がってくる。

私も恐れず挑戦していきたい。

こんな時だからこそ一歩を踏み出そう。皆さんの挑戦を応援しています!!


澤口雅彦
ファジアーノ岡山に2009~2018シーズン在籍し、2020シーズンをもってプロサッカー選手を引退。
2021年3月下旬に株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブに入社し、新設した『クラブコミュニケーター』として、事業部門、および普及スクールコーチを担務し、地域とクラブの発展に寄与する活動をしてまいります。


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