澤口雅彦レポート~さわレポ10~ —原動力―

「ピーーーーーッ!!」
強く吹かれたホイッスルと共に主審がPKマークを指さす。

PKが行われるときはキッカーに注目が集まる。
決まりそう、外しそう、いろんなサポーターの心の声がスタジアムを飛び交う。
そのただならぬ緊張感、雰囲気がキッカーを包み込む。

私もかつて一度だけ、天皇杯で延長戦を戦っても勝敗がつかず、PK戦までいったことがある。そして5人目のキッカーを任された。90分の試合を終え、延長戦30分の後のPK戦は疲労も溜まり、足は自分の足ではなくなっているような感覚になる。
かつてJリーグは、1998年までは勝敗を必ずつけるような方式を取っていたため、PKまで行われていたことを思うとゾッとする。

2017年天皇杯のFC今治戦。

いざPKになると、延長戦を終えたあとに休憩をはさみ、PKを蹴るまでの時間が少しある。そのため正確なキックが求められるPKで、ボールを蹴る感覚に少しずれが生じてくる。
個人的にはPK戦は好きではないし、好んで蹴りたいとも思わない。
しかしキッカーに選ばれ、蹴ることになったら高確率で決めるので(笑)、この天皇杯の時も私のPKが成功し、勝利を収めた。
振り返ってみると、試合中のPKのキッカーを任されたことはないが、サッカー人生の中でPKを外したことは一度しかない。それは高校三年生の時の茨城国体での千葉との試合だった。

話を天皇杯の時に戻すが、私がPKを蹴るとき皆さんはどう思っていたのだろうか。
澤口は決めるのか、外すのか、どっちの想いが多かったのだろう。
要は人々の想いは伝わるか、ということだ。

私は、その心の声は選手に届くと思っている。

手拍子、チャント、フラッグ、スタジアム全体で回すタオルマフラー、ファジレッドに染まったスタンド、サポーターの声が、想いが、私たち選手の足を動かしてくれる。
選手はそれらを目で見て、耳で聞いて、肌で熱を感じ、エネルギーに変えている。

1試合の中には、うまくいく時間もあるが、相手ありきのことなので、当然うまくいかない時間もある。
個人に的を絞ると、パスが通った通らなかった、ボールを奪った奪われた、ゴールを決めた、決定機を外した…気持ちの浮き沈みが1試合の中でも繰り返される。

後半の残り15分。勝敗を左右する時間帯、選手にとっては体力的にきつい時間帯になる。
そんな時、スタンドから聞こえてくる声は選手たちの足を動かしてくれる。

私はファジアーノ岡山を離れ、2年間地域リーグでプレーしたが、観客の数は少ないのが現状だった。
岡山時代は特に意識せずとも、当然のように試合のモチベーションが上がっていたJリーグと違い、地域リーグでのモチベーションのコントロールは難しかった。
試合で苦しい時間帯は自分で自分を鼓舞し、気持ちを奮い立たせ、プライドと仲間のために走り続けた。そして、それはサポーターの声援に体を動かしてもらっていたことに気が付いた2年間でもあった。

今はスタジアムで声を出しての応援はできないが、それでもサポーターの想いは必ず選手に届いている。

次節の東京ヴェルディとの試合は、有観客での試合となる。
次の試合でも選手に想いを届けよう。サポーター1人ひとりの想いが選手の力になる。
ともに戦おう!12番目のファジ戦士!


澤口雅彦
ファジアーノ岡山に2009~2018シーズン在籍し、2020シーズンをもってプロサッカー選手を引退。
2021年3月下旬に株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブに入社し、新設した『クラブコミュニケーター』として、事業部門、および普及スクールコーチを担務し、地域とクラブの発展に寄与する活動をしてまいります。


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